心臓血管外科医|山口裕己先生
臨床を基軸に優れた心臓血管外科医を育てる
それが自身のそして大学病院の責任
圧倒的な症例数だけが、優れた手術成績を生む
“患者さんの治療を第一に考える”ということは、以前も今も変わりません。
大学病院においては、臨床に加えて教育・研究を合わせた3本柱が大切ですが、臨床で得られる症例がなければ教育も研究もできないのですから、その意味でも臨床は非常に大事だと考えています。1999年から約6年間ニュージランドへ留学し、年間に400例ほどの手術を経験しました。日本の標準的な年間症例数は約40なので、400例はその10倍。
日本だけで臨床や研究をしていたのでは到底、成し得ない数です。帰国後に着任した病院でも留学時と同程度の症例に携わり、早期死亡率0.47%という高い成績を達成することができました。
積極的なチーム医療で、 情報も心もひとつに取り組む
日々、臨床経験を重ねても、死亡率はゼロではありません。大事なのは、その理由を検証し、同じ原因で二度と患者さんを失うことのないよう努めること。それにより手術はより洗練され、また必然的に成績も向上するのです。
そしてもうひとつ高成績のために欠かせないは、チームの結束です。ここは総合病院なので、心臓外科医や内科医もちろん、薬剤師や栄養士など他職種の人たちが一緒になって医療を行っています。内科医とは大小のカンファレンスを綿密に行っており、いわゆる「ハートチーム」として良い関わりが持てています。外科・内科どちらかだけに偏るのではなく、みんなの力がひとつになってこそ、良い医療が提供できるのだと考えています。
優秀な若手の育成が 残りの外科医人生のテーマ
良いチーム運営のためにもウエアは大事な要素。“自分たちはひとつなんだ”という気持ちを表し、団結の象徴にもなるのではないでしょうか。
1日中、白衣やスクラブを着ている日も多い僕たちにとっては、機動性と格好良さを兼ね備えたものが理想です。病院や学校のマーク、自分の名前も入ったウエアは、“自分たちはここで働いていた”という証や誇りにもなる。僕自身も、留学時代のウエアは今も大事にしています。
僕は今、55歳。残りの時間で、自分が持っている技術や知識をいかに残していくか。50代からは、人生を“引き算”で考えるようになりました。自分が年間200例手術したとしても10年間で2,000例にしかならない。ですが10年間に10人の弟子を育て、彼らが実績を重ねてくれたら、成果は10倍以上になります。
今後は、僕の心臓血管外科医としての遺伝子を引き継いでくれる若手の育成に、一層心血を注いでいきたいです。